保険料の経費計上で迷っていませんか。個人事業主や法人の保険料は、種類によって扱いが異なります。この記事では保険料を経費に計上する判断基準や仕訳例、注意すべき点についてわかりやすく解説します。
法人や個人事業主にとって保険はリスクをカバーする重要な手段です。ただし、すべての保険が経費として認められるわけではありません。生命保険や火災保険、社会保険など、それぞれの保険料をどう仕訳すればいいのか戸惑う人も多いでしょう。この記事では、保険料の計上を考える際に押さえておきたいポイントや具体的な仕訳例を紹介します。正しい知識を身に付けて、経費処理と節税を上手に進めていきましょう。
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【所属】
税理士法人Five Starパートナーズ 代表税理士
【経歴】
大阪府豊中市出身。関西学院大学経済学部卒業後、中原会計事務所に入所。2001年に税理士試験全科目合格。その後、新日本アーンスト・アンド・ヤング税理士法人で国際税務業務に従事。2005年にヒロ☆総合会計事務所を設立し、2022年に税理士法人Five Starパートナーズへ組織変更。また、YouTubeチャンネル「税理士YouTuberチャンネル!!」を運営し、税務や経営に関する情報を発信している。
保有資格: 税理士
※詳細やご自身の状況に応じた適切な対応については、税理士等の専門家にご相談ください。
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1.保険料を経費にできる理由と仕組み
1)リスク対策とコスト負担
企業や個人事業主が保険に加入する目的は、火災や事故、盗難など突発的なリスクから事業を守るためです。これらの支出が事業運営の一環であれば、保険料は経費になる可能性があります。経費として認められれば事業所得の圧縮につながり、節税効果が期待できます。しかし、保険の種類や契約者の属性によって、経費として扱えるか否かが変わってきます。経費に計上できるかを正しく判断することが大切です。
2)税務上の考え方
税務では、保険料が「事業のために必要な支出」として認められれば経費に含めることが可能です。しかし、事業主個人の生命保険や医療保険などプライベートな目的を含むものは経費にできません。一方、従業員の社会保険料や法人契約の損害保険などは事業と直結した費用と見なされるケースが多いです。それぞれの保険料が事業目的を満たしているかを、契約内容や用途を踏まえてチェックしていく必要があります。
2.経費として認められる保険とその条件
1)火災・損害保険
店舗や倉庫などの資産を守る火災保険は、事業運営上必要不可欠な存在と判断されやすいです。事業所に関わる建物や備品を対象とした損害保険も同様で、事業資産を守るための保険料は経費として計上できます。ただし、建物が自宅兼事務所の場合は家事按分が必要です。プライベート部分を除いた面積や使用時間で按分し、適切な割合を経費に含めましょう。
2)自動車保険
業務で使用する車両にかかる自動車保険の保険料は、事業に必要な経費として認められます。しかし、家族やプライベートにも使用する車両ならば、こちらも家事按分で使用割合を割り出す必要が生じます。業務利用と私的利用を混同せず、業務部分だけを経費にするのが原則です。必要に応じて走行距離や日数を根拠とした按分を行いましょう。
3)労働保険・社会保険
従業員を雇用している場合は、労働保険(労災・雇用)や社会保険(厚生年金・健康保険)の事業主負担分を経費計上できます。これらの保険料は「法定福利費」として処理するのが通常です。ただし、経営者本人やその家族が加入する国民健康保険や国民年金は個人負担が原則であり、法人の経費にはできません。仕訳の際には、誰のための保険料かを明確に区別しましょう。
4)第三者に掛ける傷害保険
業務遂行中の万が一に備え、従業員や取引先の損害を補償する傷害保険も経費とすることが可能です。これは業務上のリスク管理と直結するため経費性が高いとみなされます。具体的には取引先が訪問中に事故が発生した場合など、事業主側が損害賠償を負う可能性がある状況に対応する保険です。このような保険は契約内容をしっかり確認し、事業上必要であることを明示できれば経費処理が認められます。
3.経費として認められない保険
1)事業主や専従者の生命保険
経営者本人や家族が加入する生命保険や医療保険などは、事業を直接保護するものとは言いにくいです。そのため、基本的に経費に含むことはできません。法的にはそれらの保険料は個人の所得控除(生命保険料控除など)として別枠で扱われます。もし、企業が役員の生命保険を法人契約で締結しているなら、扱い方が変わることもあるため、事前に税理士など専門家に確認するといいでしょう。
2)自宅部分を含む火災保険の全額
自宅兼事務所など、住居部分にも保険適用がある火災保険は、全額を経費として落とすことはできません。住居部分はプライベート利用に該当するため、事業用と住居用を分けて按分する必要があります。この按分割合を適切に設定しないと、過剰経費とみなされてしまい、税務署から修正を求められるリスクがあるため要注意です。
4.保険料の仕訳と勘定科目
1)保険料の勘定科目を使う
会社(法人)や個人事業主が支払う保険料は、保険の種類に応じて「保険料」の勘定科目で処理される場合が一般的です。たとえば火災保険なら「保険料」、従業員向けの社会保険料なら「法定福利費」、経営者や家族の国民年金は「事業主貸」など、用途に合わせて勘定科目を選びます。どの科目を使うべきかを明確に理解しておくと、仕訳がスムーズに進みます。
2)経費で処理する場合の仕訳例
実際には次のような仕訳を記入することになります。たとえば火災保険(1年契約)を現金で支払った場合は、
「借方:保険料○○円 / 貸方:現金○○円」
となります。また、経営者本人の生命保険料を会社が支払った場合は、プライベート要素が強いため「借方:事業主貸○○円 / 貸方:普通預金○○円」のように記帳する形が多いです。これは経営者個人の費用に該当するため注意が必要です。
3)返戻金を受け取った場合の処理
解約などで保険会社から返戻金を受け取った際は、雑収入として扱うケースが多くなります。たとえば「借方:普通預金○○円 / 貸方:雑収入○○円」と仕訳し、過去に支払った保険料との関係を正しく記録しておきましょう。もし法人であれば課税される可能性があり、個人事業主の場合は所得税の対象となるかどうかを慎重に判断してください。
5.保険料計上で押さえておきたいポイント
1)契約内容を整理し、事業用途を明確化
保険契約を結ぶときに、どこまでが事業保障でどこからが個人保障なのかをあいまいにしないことが大切です。法人契約でもプライベート目的が含まれると、全額経費が認められないことがあります。契約書や保険証券の内容をしっかり確認し、経費対象部分をはっきりさせましょう。
2)領収書や証券を保管する
保険料を経費にするなら、支出を証明できる領収書や口座振替の記録、保険証券のコピーなどを保存しておく必要があります。これらの書類は、税務調査の際に本当に事業関連の支出であることを示す重要な証拠となります。業務上の必要性が明確な場合は記録をきちんと残し、疑義が生じないよう備えてください。
3)個人事業主の年金や健康保険は所得控除で対応
経営者本人の国民年金や国民健康保険などは、経費ではなく所得控除の対象です。うっかり経費に含めてしまうと、過大計上となり税務署から修正を求められる恐れがあります。国民年金などは「社会保険料控除」で申告するしくみとなっているため、確定申告時に正しい控除を適用しましょう。
4)社員の社会保険料は法定福利費
従業員の健康保険や厚生年金保険の事業主負担分は、「法定福利費」という勘定科目を使って経費に計上します。中小企業や個人事業主でもスタッフを雇う場合、こちらの処理方法を知っておくと役に立ちます。法定福利費は合法的に経費に含められるうえ、従業員が増えるほど額も大きくなるので、きちんと仕訳しておくと節税にもつながります。
5)保険契約の見直しや変更時は専門家に相談
保険料の扱いは契約形態や補償内容によって異なるため、業務用やプライベート用の境界が曖昧になりがちです。契約を新たに結んだり更新するときは、税理士や保険の専門家に相談しておくと安心です。経費計上に関して悩みや疑問がある場合、詳しいアドバイスを受けることでリスクを軽減できます。
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まとめ
以上のポイントを踏まえると、保険料の経費計上は保険の種類や契約対象者、保険内容によって取り扱いが異なります。正しく仕訳しておかないと税務上のトラブルに発展する可能性があるため、契約時に内容をしっかり把握し、判断が難しい場合は専門家への相談をおすすめします。正しい処理でリスクを回避し、適切な節税につなげていきましょう。
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よくある質問
Q1. 事業主が社員全員の自動車保険もまとめて契約した場合、全額経費にできますか?
まとめて契約しても、あくまで業務目的で使用する車両の分に限り経費として計上できます。もし私用の車を含む保険契約なら、家事按分のように事業利用割合を計算して、事業分だけを経費にすることが大切です。従業員がプライベートで使う割合が大きいなら、その部分は経費になりません。
Q2. 保険料を年払いしている場合、すべてを支払った期に経費計上できますか?
契約が1年分を一括払いの場合でも、前払費用として処理しなければならないケースがあります。契約期間が12ヶ月を超えず、かつ継続的な取引であれば短期前払費用の特例などが適用され、一括で経費処理できる場合もあります。具体的な条件を満たしているかどうか、あらかじめ確認してください。
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